その夜、ふと目が覚めると枕もとのふすまが揺れていた。
カタカタ、カタカタ、かすかな音を立てる小刻みの震え。
家の猫はいつもこのようにして、爪でふすまを開ける。
だが、当の彼は今、私の布団の足先で丸くなって寝ていた。
この家はけっこうなボロ家ではあるが、さすがにふすまを
揺らすほどの隙間風は吹き込まない。
グロウライトのぼんやりした明かりの下、じっとして
揺れるふすまを見つめる。細く細く開きかけた、暗い狭まりの先。
私の猫は眠っている、ピクとも耳を動かさないまま。
怖いものなど知らぬ、とでも言いたげに。
恐ろしさは感じない、ただ不思議だけが巡る。
これは何、これは何、ふすまを揺らすのは、誰。
やがて音は止み、ふすまは動かなくなった。
そっと開けて窺うが、何も無い。
そして数年がたったある夜、皆が寝ている間に
家族が一人、亡くなった。
「おやすみ」と言って寝たまま、朝には冷たくなっていた。
そのことをきっかけに、私たちはその家から引っ越した。
しばらくして、家は取り壊された。
新しい家でも私の猫はつつがなく、夜毎私の足先で眠る。
この家のふすまはまだ、夜中に動き出したことは、ない。