「 飛翔の魅力 ―設定のはなし、あれこれ(3)― 」 (9月19日)

    さて、「黒猫館版カルドセプト物語」の設定ばなしも3回目、今回のテーマは「飛行」である。
    飛行!それは人間の永遠の憧れ―というわけで、私も物語中の「飛行シーン」は見せ場の一つ
   と心得ている。空を飛ぶ浮遊感や開放感、速度感をどう表現するかは、執筆上の工夫のしどころだ。
    『カルドセプト』に登場するクリーチャー中には、空を飛ぶ能力を有する飛行クリーチャーが
   相当数いる。代表的なものを挙げるとペガサス、ハーピー、ワイバーンなど(あ、風属性ばっかり
   になっちゃった)。彼らの多くは翼を持ち、素早い動きをすることから「先制」(防御側であっても
   先に攻撃できる)能力を付与されている。
    ところで、こうした飛行クリーチャー達はどのようにして空を飛ぶのだろう?
    「そりゃあ、翼をバタバタさせてに決まってんじゃん」などと軽々には言わないように。実は
   「空を飛ぶ」のはとても大変なことなのだ。
    鳥を例に挙げれば、まず体重を軽く保つこと。彼らの骨は内部が細いはりに支えられたスカスカ
   構造であり、軽くて丈夫だ。食物も重くなる原因の一つであるため、腸を短くして食べたら速やか
   に排泄するように進化した(鳥がしょっちゅうフンをするのはそのため)。とにかく軽く、少しでも
   軽く―が、空を飛ぶための仕組みの基本である。
    その一方、翼を動かす筋肉は大変発達している。呼吸器官にも独自の工夫があり、肺に連なる
   気嚢(きのう)という空気の袋が、筋肉を動かすたびにより多くの空気(酸素)を取り込む。飛ぶ
   という激しい運動をささえる、これは目立たないが重要な器官だ。
    さらに、精妙かつ高速を必要とする翼の動きを実現するため、小脳(運動神経を統御)も発達した。
   離陸、飛翔、滑空、空中停止(ホバリング・ただしハチドリのみ)、着陸のそれぞれの場面で鳥は
   翼の動かし方を変えているのだが、その変化をスムーズに行うことができるのは小脳のおかげである。
    現存の鳥の身体の構造で空を飛ぶ場合、大きさの上限は約8メートルだそうな(荒俣宏氏の説、
   これは多分、体長ではなく翼の差し渡しの長さと思われる)。
    実際の鳥では、翼の差し渡し3メートルというメキシコのコンドルが最大。ただし、彼らの体は翼
   だけで飛び上がるには大きすぎるため、地上から飛び立つ際には体を浮かせる向かい風が欠かせ
   ない。ハクチョウなどの大型鳥類も同様で、離陸時には飛行機なみの長い助走距離(ハクチョウ)や
   斜面+海からの向かい風(ミズナギドリ)などが不可欠である。
    上記にてわかるように、鳥も飛ぶためにはあれこれ苦労しているというわけだ。
    それでは、もとは人の想像の産物であるクリーチャーはどうやって「飛ばせたら」いいのだろう?
   生物の身体はすべからく合理的に出来ているものだが、人の想像はそんな制約など一切考慮せず、
   好き勝手に空想の羽を伸ばす。恐竜時代の翼竜を思わせるワイバーンならまだしも、ペガサスだの
   グリフォンだの、あの程度の翼の大きさと筋力では本当ならちょっとでも浮くはずはないのだ。
    「えー、どうせファンタジーなんだからいいじゃん、硬いこと言わなくても」という考えもあるには
   ある。でもしかし、ただ「ペガサスが飛んだ」と記述したところで飛翔のトキメキ感はゼロじゃあ
   ないか。ウソの中に幾分かのホントらしさを混ぜ込んでこその、幻想(ファンタジー)のヨロコビ
   なんではないのかしら?
    という考えから、カードのクリーチャーの飛行はできるだけ航空力学に添うやり方にしたかった。
   ホンモノ感覚が欲しいんである、まさに「飛んでる!」という。
    で、そうなるとネックは、彼らの多くがあまりにも「デカい、重い、バランス悪い」ことに尽きる。
   ペガサスやグリフォンを飛ばせるのは、ほとんど飛行機を飛ばせる作業に近いぞ、どうしよう…。
    そこで飛行機の飛び方を振り返ってみると、これは自から風を起こすことで飛ぶ手掛かりを作る。
   やっぱり、重いものを離陸させるためには相応の強い風が必要なんだな…風・風・風と…。
    なんて頭を悩ませるうちにふと、ハリアー機の勇姿が思い浮かんだ(映画『True Lies』で
   見たことある)。天啓が、「そうだ、ホバーだよホバー!」。
    離陸の瞬間は、「浮遊」の呪文効果を持つ啼き声で"浮けば"いいんじゃないか。で、浮いたら
   次には向かい風を呼ぶ啼き声をあげて飛び上がる―!。この方法なら、かなり大きいクリーチャー
   も飛行機と同じ原理で空が飛べるぞ、やったね(小躍り)。なにより幻想のクリーチャーらしい飛行に
   なりそうじゃないか(自画自賛)。やっぱホバーはいいよね、ホバー万歳(←とか言いつつ、実はグフ派)。
    とまあそんな試行錯誤の結果、クリーチャーの飛行はおおむね上記の方法を採用することにした。
   でもなんかアラがあるようなら、ぜひともお教え願いたいと思いますので皆さまひとつよろしゅうに。

    追記:映画に登場する大型クリーチャーの離陸シーンで、非常に忘れ難いある場面について。
   それは平成ガメラ第二作『レギオン襲来』での、札幌市を舞台にした戦闘後のシーンである。
    激しい戦いにより負傷したガメラが手足を甲羅に引っ込め、宙に浮く。そして回転を始めた瞬間、
   周囲の高層ビルのガラス窓に、「ビシャッ」と音をたててガメラの血がしぶく。
    ここには「大怪獣」の、痛ましくも勇壮で孤高の美しさに満ちた存在感が、強烈に焼きつけられている。
    「怪獣」をこのような表現で描く事のできる文化が、この国にはある。私はそのことを誇りに思っている。
   異形を"排除すべきもの"としてしか描かない作品など、人間の驕りを示すだけと言えるだろう。



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