「 "クレイモア"という剣 」 (2月19日)

    1)切れ味を誇る両手持ち大剣
    「クレイモア」とは、16世紀前後のスコットランド・ハイランド地方(北方の高地)に
   割拠した諸氏族("クラン"と呼称される)が使用した剣である。
    その長さ(柄も含めた全長)は100〜190cm、重量は2〜4.5kg。剣としての
   部類は両手で柄を握って構える「両手持ち大剣」となる。
    ただし西洋世界の両手持ち剣の大半は、180cm以上の長さと5〜7kgの重量を持つ。
   15世紀中頃〜16世紀末に全盛期を迎えたこれら「大剣」は、その長さと重さを生かした
   「ストライク・アンド・スラスト」(日本語で言うところの"叩き斬る")の攻撃方法を旨とする、
   歩兵用の武器だった(この重さに長さ、まさか馬上では使えまい)。
    これは同じ頃に発達した「鎧」に対抗するための措置である。「先駆け」と「接近戦」を名誉
   とした西洋騎士階級にとり、"一撃必殺"の大剣は当時の最強ウェポンであった。
    一方で今回取り上げた「クレイモア」だが、上記に示す通り両手持ち剣としては比較的「軽い」。
   これは刀身が薄手にできているためで、それだけ「刃の切れ味が良い」ことを意味する。
    要するに両手剣ではあっても「クレイモア」だけは、刃の切れ味と取り回しの良さ(機動性)
   を生かした攻撃「カット・アンド・スラスト」(断ち切る)が可能な剣なのである。
    「クレイモア」の形状的な特徴は、刃先に向かってV字型に持ち上がった棒状の鍔(キヨン)
   と、その先に複数の輪飾りを持つこと(『カルドセプト』カードイラストでは3つ)。この
   他、赤色で縁取られた鞘(さや)に収められていた―との説もある。
    そして持ち運びの際には身体のどの部分に装備したのか…については、大剣だが機動性に
   優れることから、私は腰に佩(は)いていたのではないかと想像している。
    (もっと大きな剣になると、背中に負ったり従者に持たせたり、馬に付けたりするそうな)

    2)ハイランダーの剣
    先に「クレイモア」はスコットランド・ハイランド地方を出自とする―と書いた。この地方の
   諸氏族こそは、勇猛果敢さで西欧史上に名高い「ハイランダー」と呼ばれる人々である。
    日本人も知るタータン・キルトをまといバグ・パイプを鳴らす風俗は彼ら「ハイランダー」
   のもの(映画『プレイプ・ハート』を観た方なら容易に思い描けるはず)。概して誇り高い
   スコットランド人の中でもとりわけプライドが高く、イングランドへの対抗意識も強い。
    長らく氏族ごとに勢力争いを繰り広げていたハイランダー達だが、イングランド人の侵攻
   には団結して頑強に抵抗した。1707年にスコットランドがイングランドに併合された以降
   も40年の長きにわたり、独自の文化を守るために闘い続けたのである。
    ―おやおや、すると「クレイモア」はイングランドの騎士部隊と対決した剣ということになる
   ではないか。『カルドセプト』で"騎士"のカードと組ませるのは、実は「微妙な取り合わせ」
   なのかもしれない…。
    併合後も抵抗を続けたハイランダーは、後にイングランドの政策により過酷な弾圧を受けた。
   故国を追われた彼らのうち、生活のためやむなくイングランド軍下に入った者たちの活躍が、
   「クレイモア」の勇名を西欧社会に広めたようである。
    現在のハイランド地方は同国第3の都市「アバディーン」を中心とする。今でもこの地域
   の人々には、勇猛で誇り高いハイランダーの気質が受け継がれていると言われている。

    3)大剣の使用方法
    ここまでに紹介したように、両手持ちの剣は長くかつ重い。これを武器として使いこなす
   ためにはもちろん、それなりのデザイン上の工夫や技術が必要だ。
    まず形状の話をすると、大剣類はいずれも鍔(剣の場合正しくは「護拳」と呼ぶようだ)の
   後ろの柄(つか)がかなり長い。大体において、全長の三分の一以上はある。
    剣を取る際にはこの柄の長さを十分に生かし、利き手は護拳に近い部分(刃先側)を、
   もう一方の手は柄の一番下側を握る。両手の間には空きができるが、これで重い剣でも
   しっかりと持つことができる(日本刀も両手持ちだが、感覚がだいぶ違うことがわかる)。
    そして振る時には、片手剣以上に全身の力をうまく使う技術が必須だ。なべて刀剣の類は
   「左手で振り、右手でコントロール(右利きの場合)」するものだが、重い剣に振り回されるよう
   ではスキが大きく危険極まりない。体重の軽い人では扱いは無理、普通の人でも鎧を着て
   ウエィトを重くすることで何とか釣り合いが取れるのでは…などという説もあるぐらい。
    また振り抜いた後の姿勢も重要で、できるだけスキを小さくするため剣を振った加速度の
   まま一回転してさらに攻撃を続ける―という方法もあるそうな。
    この大剣による「突き」攻撃が実際にあったか否かは不明である。
    調べた限りでは「かなり難しそう」と言わざるを得なかった。だがそれだけに「盲点を突く
   攻撃」との指摘もあり、これを習得した剣士はさぞかし、戦闘を有利に進めることができた
   ものと思われる。

    ◎豆知識のコーナー◎
    ちなみに刀剣による「突き」攻撃は、ほぼ100%刃を寝かした(「一」の字の状態)「平突き」
   にて行われるそうである。
    これは、最初の刺突でもし致命傷を与えられなくても、「平突き」ならば即座に薙ぎ払う動き
   へとつなげて攻撃を続行できるため。実戦では絶対に自分の動きを止めてはならないのだ。
    マンガやアニメではよく刃を立てた(「1」の状態)刺突攻撃の態勢が見られるが、この使い方
   では急所をはずした時に刃が骨に当たって動かせなくなり、大変危ないのだとか。
   (つまりあくまでも「見た目重視」、カッコ良さ優先の"剣術もどき"ですな)
    彼我の剣の腕前によほどの差がなければ、とても刃を立てての「突き」などできない―のが、
   実際の剣士の常識なんだそうである。
   (よって当館の読み物内にて刀剣による「突き」攻撃の描写があった場合、これ全て「平突き」
   であることをご承知おきくださいませ)

    ◎参考にしたサイトさま◎(直リンクにしてありません、アタマに「h」を補ってください)
    ・「滝 瓶太郎SWORDS WORLD」
     ttp://www.geocities.jp/bowen_dragon/taki/index.htm
    ・「Swords and Bows 剣と弓の物語」
     ttp://www.net24.ne.jp/~lv1uni/ken/bows.html
    ・「武器図書館」
     ttp://aineias.hp.infoseek.co.jp/index.html
    ・「Armourer」
     ttp://www.din.or.jp/~alices/armourer/armourer/

    以上、どちらも貴重な資料や考察を惜しげもなく公開されておられるサイトさま揃いです。
   おかげさまで大変参考になりました、各サイトマスター様に心からの御礼を申し上げます。



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