「 セプターとカード――登場人物の「設計」について―― 」(上) (11月5日)

    (※6話・7話の"ネタバレ"あります、未だお読みでない方はご注意ください)

    さて、当館の読み物『"力"の扉』の各種設定に関する話題もいつの間にやら第6弾目。
   今回は(いよいよ)、登場するセプターらと使用カードの「設計」に関する話である(注1)。

    さて、どのような「物語」を書く上でも、そこに登場する人物の「人となり」は格段の
   重要事項だ。なにしろ物語のスジは彼らを中心に進んでゆくのであるし、読者の多くを
   魅了するのも彼らの存在の"ありかた"如何なのであってみれば。
    かく云う私が書き進めるのは「セプターの物語」。ということで作中には自然、何人
   ものセプターが登場してくることになる。彼ら彼女らがどのような人物なのか――という
   問題については、"設計"の段階で常々(無い)アタマをひねくっている。なんと言っても
   一番時間のかかる部分が「これ」だったり。

    まあ物語の中心となる二人(ゼネスとマヤ)のことはさて置き(こちらは別の問題に
   つながるので)、今回は各話のゲストキャラクターの設計方針について書き留めておこう。
    『"力"の扉』では一話ごとにサブのキャラクターを登場させている。これは、私自身が
   この物語において「他者との関係」を描くことにチャレンジしたい野望を持っているため。
   また、広くかつ複雑多様な「世界」の様相を描きたい――との試みもあって、こういう形を
   取ることにした(注2)。

    そして、物語に登場する人物たちは「設計」という面から見れば大別して二通りに分ける
   ことができる。

    ひとつは「話のスジに沿った人物像」、そしてもう一方は「私(作者)が描きたい人物像」。
   つまり、「描きたいもの」として物語が先にあるか人物が先にあるかという違いだ。
    「物語が先」の場合、人物像はすでにあるプロット(すじ書き)から割り出しながら
   設計される。性格、思想、言動の傾向、――全ては「彼(彼女)が物語の中で何をする人か」に
   よって規定されるのである(注3)。

    ということで、プロットがしっかりと組んであれば(書きたいテーマが明確であれば)
   そこに登場する人物の輪郭も自ずと"くっきり"浮かんでくる運びに。
    ――で説明を済ませたいがしかし、実際には"それ"ばかりでもない。
    逆に人物設計を進めることで、プロット中のぼんやりしていた部分が"くっきり"と立ち
   上がってくることもある――のが創作の面白いトコロだ。

    この点を、もっと具体的に記してみよう。

    私の場合、ある程度「設計」ができた人物はまずプロットの中で動いてみてもらっている
   (この段階では物語はまだ書かれてはいない、私の頭の中だけで進んでゆく)。彼(彼女)
   が「何をする人なのか」はすでに確定した、ここからは「どんな人であるのか」を、彼らの
   動きをひたすら"観察"することで詳細部分に至るまで割り出してゆく(注4)。

    この"観察"の結果、当初の「設定」や「設計」を変更・付加する必要が出てくることも当然
   ながらある。

    例えば第7話に登場するユウリイとロォワンの二人。
    ユウリイは自分の村の女性の扱いに対して疑問を持っているが、彼女がそのような考えを
   抱くためにはそれなりの背景がなければならない(奴隷を奴隷状態から"真に"解放するため
   には、奴隷自らが"奴隷解放の理念"を持つ必要がある)。
    そこで、当初はなかった「彼女の母親は村の"外"から来た女である」設定を付け加えた
   (村の"内側"しか知らなければ、彼女らは女性差別が世界の常態だと信じ込んだままだ)。

    またロォワンについては、当初の設定ではもっと粗暴な男のつもりだった。でも実際に動く
   様子を見ると、彼はむしろ思慮分別のある男ではないか(ありゃりゃ)。
    この時点で彼らの「運命」はもちろん決定済み、だがそこに至るまでの「過程」はまだそれ
   ほどハッキリしてるわけじゃない。――ので、ロォワンの"男ぶり"が判明したところで
   二人の関係の在り方も、現状のように定まったのであった。

   そうしてもう一方、「人物が先」のケースは……『"力"の扉』では今のところただ一人しか
   いない、「ロメロ」である(お読みになった方なら容易に見当がつくでしょうが)。

    「ロメロ」については、ゼネスと対照的な男性像としてぜひとも描きたい人物だった。塩味の
   ものばかり食していると甘いものが食べたくなるように、(頭の中だけとはいえ)ゼネスのような
   男の物語と長い間付き合っていると、全く正反対の男を無性に描きたくなってくるのだ(注5)。
    ということで、彼は人物像のほうが先行していた。そうなると問題は「どの話に出てもらうか」である。
    そこで、話の中心に少年少女が登場する第7・8話に登板してもらうことにした。理想的大人像
   として"彼ら"の力になってもらいたかったし、またプロットそのものは暗い話に明るさを添えて
   くれる、貴重な人材でもあったもので。

    読んでくださった方々からの反応をお聞きする限り、結果として上記の試みは概ね成功を収めた
   ――と言えそうだ。それに何より、作中のゼネスに大きな変化が出た(書く前に想像していたよりも
   大きな変わりようをしてくれた)。彼に対する"触媒"の役目をも、ロメロは充分に果たしてくれた
   のである。自作の登場人物ではあるが、実際、彼には感謝してもしきれない。

    なお、「描きたい人物」はあともう二人ばかりいる。物語が順調に進んでゆけばいずれ登場する
   はずなので、どうぞお楽しみに。

    (長くなってしまったのでこの項続く、次は登場する各セプターの「使用カード」について語る予定)




    注1) ちなみに、私は「設定」と「設計」は違うものだと理解している。
        「設定」=身長や容貌(顔かたち)、家族構成などの外面部分における諸要素。
        「設計」=性格、理念、願い、背景文化などの内面部分における諸要素。
             (すなわち、その人を"かく在らしめる"諸要素)

    注2) 「狭い関係」の中でしか展開しない話を「読ませるもの」として仕上げるため
       には、プロットおよび人物描写にそれなりの工夫や仕掛けが要る。簡単そうに見え
       ても、実際には作家的力量が問われるのが「狭い関係」の物語である。
        二次創作品には上記の点を全く考慮しない作も多々見受けられるが、その原因は
       作者が「お気に入りキャラと自分との関係」だけにしか興味がないからだろう。
        他人にどう「読ませる」かを考慮せず、書いた本人だけが嬉しい作品がいわゆる
       "チラシ裏"である(大いに自戒を込めて記す)。

    注3) ところで「設定」については、プロットを作った段階で大方は決まっている。ただし
       人物の容貌(顔かたち)のみは「設定」「設計」がともに済んだ最終段階で決めることが多い。
        とはいえこの手の作業の進行具合は十人十色、想像力の取っ掛かりがしやすい面から
       やれば良いのではないか――と思う。

    注4) こうして人物が「動く」段階に入ったら、プロットよりも当の人物の存在感(動き
       そのもの)を優先することにしている。場合によってはプロットの"書き換え"も
       辞さない(でもまだそうすべきハメにおちいったためしはないけれど)。
        ちなみに、「人物がうまく動いてくれない」理由は
        1:プロットが固まっていない(何を書きたいのかがはっきりしてない)。
        2:「設計」がなされていない(人物の内面をつかめていない)。
        3:想像力が足りない(「人間」全般に対する観察不足)。
        ――といったあたりの問題ではないかと考えている。

    注5) プロ作家や漫画家などの作品で、同じ人物が複数の物語に登場してくるケースがある。
       こういう現象が起こるのは、その人物が「作者がどうしても描きたい人物像」だから
       かもしれない(「テーマ」よりも「特定の人物」に想像力が働く――ということはままある)。



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