「 戦闘シーンを書くために(その構成上の工夫について) 」 (8月12日)

    (※2話・6話・8話の"ネタバレ"多少あります、未だお読みでない方はご注意ください)

    さて、私は現在「黒猫館」にて『"力"の扉』なるファンタジー長編を連載しております。
   この物語の「売り(読者さまへのアピールポイント)」はいくつかありますが、その中でも
   重要なのが登場キャラクターによる戦闘シーンであります。
    なにしろ、元ネタのゲームである『カルドセプト』そのものが、カードを使ったバトルで
   資産の取り合いをするという内容。だけに畢竟、これをファンタジー物語として書く上でも、
   編中の戦闘シーンは「華」として精彩をもって描かれねばなりません。
    ですが、戦闘シーン=アクションシーンを効果的に「見せる」ためには、その他の日常シーン
   を描く場合とは違った考え方が必要であることを常々感じています。
    そこで今回の「ひとこと」では、戦闘シーンを書くためにこれまで自分なりに重ねてきた
   工夫の一端を「覚え書き」の形で記してみることにしました。

    1 「プロット」の段階であらかじめ整理しておくこと
    ストーリーのある「物語」を書く時に必要なものに「プロット」があります。この「プロット」
   とは言ってみれば「あらすじ」、お話の骨子です。「誰が何をする話なのか」を中心に、どの
   ような順番で話を進めてゆくのかは大抵、プロットの段階で大筋を決めています。
    戦闘シーンが中心になる話の場合、そこで私は以下の3つを念頭にプロットを組み立てて
   おります。

    ・プロットを「戦闘パート」と「日常パート」に大別
    ・説明すべき事項は「日常パート」であらかた済ませておく
    ・「真打ち」の前に「前座」を出す

    2 「日常シーン」の重要性
    まず最初にプロットを「戦闘部分」と「日常部分」に分け、それぞれで「何を書くか」という
   目標を定めます。戦闘シーンが中心となるプロットではもちろん、山場である「戦闘」が一番
   大切な場面ですね。この部分を効果的に盛り上げるためには、物語の日常シーンの段階から
   戦闘シーンに向けてのさまざまな「仕込み」をしておく必要があります。
    戦闘を「事件」と考えれば、私たちの実際の日常生活でも「事件のタネ」はいつでも日常の
   中から芽生えるものでしょう。登場人物が"何か"と出遭う、あるいは"何か"に気づく、ある
   いは人物の間で互いの結びつきが強くなったり傷ついたりする――ことが全て「事件のタネ」と
   なります。「戦闘パート」での人物の行動を説得力あるものとするためには、その前段階に
   ある「日常パート」を丁寧に描くことが肝要でしょう(注1)。「仕込みは日常にあり」です。
    またのんびりした日常生活の時間を書き込むことで、後に来る戦闘の激しさ辛さはより
   くっきりと際立ちます。日常パートはそうした「対比」のための場とも言えるでしょう。
    (ちなみに『"力"の扉』では、日常パート内の食事シーンがほぼ、"人物どうしの結びつき
   を強くし、幸福感を印象付ける"働きを担っています)

    3 「説明」をどうするか
    そして次に考えるのが、戦闘シーンで入用となる各種説明事項の挿入場所です。
    『"力"の扉』は大きく言って「剣と魔法の世界」を舞台とするファンタジーであり、その
   世界での日常には私たちの実際の日常とはかなり違った面が多々あります。
    中でも、「剣(武器)」および「魔法(カード、呪文)」は現実の日常からは最も遠いもの。
   それでいて物語にはたくさんの剣と魔法が登場し、それぞれの説明はどうしても必要とされます。
    物語の流れの中では、剣や魔法がその効果を見せつけるのは主として戦闘シーンです。でも
   ちょっと待った、いったん戦闘シーンが始まってしまったら、流れを中断して説明を垂れ流す
   ことは絶対に避けねばなりません、戦闘シーンこそは「スピード感が命」だからです。
    そのため私は、戦闘シーンに必要な説明事項は極力、日常パートの中で片付けてしまうよう
   気をつけながらプロットを構成し、肉付けを行っています。
    例えば、第8話での「ゼネス×公子アドルフォ戦」では「魔力補充のカード」が全体のカギ
   でした。そこで、セプターが魔力を補充することの重要性を読者にご理解いただくため、戦い
   に先立つ農家での場面に、ゼネスが「マナ」のカードを使う様子を入れています。この場面
   でセプターの身体に魔力が"満ちてゆく"有り様を詳述することで、後の戦闘シーンの山場
   にキー・カードを使った際の有効性を際立たせたい――との目論見です。
    また第6話の後編では、日常パートの登場人物たちの会話内において、対ネズミ戦に向け
   ての「作戦会議」を行っています。
    戦闘シーンを持つ物語での「作戦」場面は、全体の流れを円滑にする上で大変に有効で
   あると私は考えています。それは第一に"戦闘の段取り、使用するカードの特徴"という説明を
   読む側の頭に自然に叩き込んでくれます。そしてさらに第二の効用として、読む人もまた
   これから行われる戦闘に参加しているかのような、一種の臨場感をもたらします。
    提示された「作戦」がはたして予定通りに遂行できるのか否か?――物語を追う読者にして
   みれば、「成功して欲しい、でも思わぬアクシデントが起こるかもしれない」というワクワク
   ドキドキの感覚にひたされるのが「作戦シーン」の醍醐味ではないでしょうか。

    4 「前哨戦」でクリーチャーを印象付ける
    さてさて、こうして日常パート内に適宜説明を織り交ぜたとして、それでもなお説明し
   きれない事項もあります。
    「クリーチャー特性」がそれです(カルド物語の場合)。
    呪文や道具カードの特性については、日常の会話内でも充分な説明はできるでしょう。
   でもクリーチャーの特性は、各クリーチャーが実際に登場して活動する様子を見せながら
   納得してもらうのが一番だと思います。
    そこで私は、戦闘内容によっては「前座」→「真打」のシステムを採用しております。
    「真打」は最も中心となるクリーチャー、その回の戦闘の主役です。そして「前座」は主役
   を立てる脇役クリーチャーになります。「前座」→「真打」とは、本格的な戦闘に先立って
   前哨戦の場面を置き、そこで前座クリーチャーにある程度活躍してもらうことで、読者に
   登場するクリーチャーの特性を理解してもらおうという試みです。
    例としては第2話を挙げましょう、「ゼネスの火竜×竜遣いの火竜・飛竜」の前哨戦です。
    この場面、実は編中でゼネスが最初に本格的なクリーチャー戦を見せる場面でもあり、
   特に大事な部分でありました。火竜の巨大さと強さを強調し、この物語におけるクリーチャー
   の重要性を印象付けることができるよう、ことにも留意したつもりです。そして後に登場する
   嵐の巨人がその火竜を手もなく捻りつぶす有り様を描くことで、「上には上がいる」という
   「真打」のさらなる強さを打ち出してみました。


    ――いろいろと偉そうに書き綴ってまいりましたが、戦闘シーンはやはりカルドセプトの
   物語の「精華」だと思います。ただし物語内の戦闘は、私たちの実際の日々の生活とは大きく
   掛け離れた非日常の現実です。そのため、よりリアルに感じていただくためのさまざまな
   工夫を重ねてまいりました。
    それだけに、お読みくださった皆さまにそうした種々の効果を深く味わっていただけて
   いるようであれば、書き手としてまこと幸いの思いでございます。




    注1)「事件」としての戦闘の他、物語には「事故」としての戦闘もあります。
       こちらは突発的に起こって登場人物が巻き込まれるタイプの戦闘シーンであり、
      通常の戦闘とはまた違った「仕込み」(あるいは「仕込み無し」)が必要となるでしょう。



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