「 猫又に なってもいいから戸は閉めて 」
「戸を開ける猫はかしこい猫。でも、開けた戸を閉める猫は猫又(ねこまた、化け猫)」
という話があるのをご存知か。
"開けたら閉める"が常識なのは、人間界だけのことらしい。で、人間じゃない生き物が
人間界の事に通じているなんて、妖怪じみてる―そういう発想のようで。
しか〜し、猫を飼っている人(あるいは、飼った経験のある人)ならほとんど全ての
方が、上記の川柳にはうなづいてくださるはず。
「妖怪・猫又」は、尻尾の先が二つに裂けているそうな。
いやいや、そんなことはぜんっぜん気にしない。気にしないから、開けた戸は閉めろ。
すきま風が寒いんだよ、毛皮を着てない身には。
だから頼むから閉めてくれ、閉めておくれでないか、お猫サマよ!
「 蛇口から 水を飲むなと猫に謂(い)い 」
ヤツは何時から、こんな事を憶えたんだろう?気がついた時にはもう、水道の蛇口に
直接口をつけてペロペロやってた。
蛇口はキチンと締めたつもりでも、管の中に水が残っているものだ。舐めて振動させ
ると、その残っている水がちょろちょろ出てくる。
そういうカラクリを、いつの間にか憶えてしまったらしい(さすがに理屈は知らんだろうが)。
ネコ科の生き物は、みんな観察が大好きだ。じーっと観察しては自分のナワバリ内の
他の生き物の行動パターンをインプットし、その情報を自分の生活に役立てる。
これは、単独で狩をする肉食動物ならではの性分である。
でもねえ、お前さんの飲み水はお皿にあるでしょうが。
え、なに?そんな汲み置きの水はイヤだって?
それでもダメ!蛇口から直接なんてダメなの!
…人間の勝手な言い分だってのは充分承知の上なんだけどさ…、ゴメンよ。
「 名を呼べば 耳だけ動く 『聞いてます』 」
まーたあんな高いところに座り込んで、目までつむっちゃって気持ち良さそうにして。
でもホコリを落とさないでおくれ、おーい、聞こえてる?
猫は"場所"の動物だ。犬が"関係"の動物であるのとは違って。
イエネコ達のナワバリは互いに少しずつ重なり合い、地域を共有するそうな。その中で
顔見知りの猫たちは、お互いを地域の「仲間」と認識しているらしい。
始めに"場所"ありき。そして"場所"を共有できれば「仲間」。私がここにいて、あなたが
そこにいる、世は全てこともなし。「仲間」とも、軽いあいさつを交わすぐらいがちょうどいい。
反対に、犬は"関係"ありきだ。深い結びつきを持つ「仲間」との"関係"こそが世界の全て。
だから「仲間」に呼ばれたら急いで戻り、常に"関係"が変わらずにあることを全身で確かめる。
ところで、人間はおサルの属だ。サルの「仲間」についての感覚は、猫よりは犬のそれに近い。
そんなわけで、人間から見ると猫の流儀はいささか"つれない"と感じがちのようで…。
でもほら、呼んでいるあなたの方へと向けて、ちゃんと耳は立てられている。
『はいはい、聞いてますとも』。