「インコとネコの微ミョーな関係」 (3月20日)

   わが家には、黒い猫が一匹おります。そして、インコも一羽おります。
   他人にそう告げるとかなりの確率で、
   「えー、猫と鳥が一緒で大丈夫?」
   と訊かれます。でも、ご心配なく。これでもう十年近く、なんとか同居してきました。
   ただし、「今まで何事もなかった」わけでもないけれど…。

   最初に家に来たのは、インコの方でした。種類は「コザクラインコ」、中型(体長20cm弱)
  の、胴体は明るい緑色で頭部がほんのりと曙(あけぼの)色した、丸こい感じの鳥です。
   インコ・オウムの類は、文鳥などのフィンチ類に比べて寿命が長く(十年以上は生きるようだ)、
  そのせいか物覚えがよくて、かつ好奇心も大変強い。そして性格はキツい(個体が多い)。
   ペットショップの店頭にあるインコ・オウムのカゴに、よく「指を突っ込まないでください、噛み
  つかれます」なんて張り紙がありますよね。あのグイとひん曲がったくちばしに本気で噛まれて
  ごらんなさい、流血沙汰どころか、運が悪ければ指がちぎられます。それほど気が強い武闘派
  の鳥です、基本的には。
   でもウチのコザクラインコの"ぴよさん"(注:名前。ふだんは"ぴよちー"と呼ばれている)は、
  例外的におとなしい。獣医さんにも、「噛みつかないインコ」と好評です(←自慢)。
   ただ、彼(オス)は家に来た直後から具合が悪くなり、一ヶ月も入院しました。かかった医療費
  が8万円。ついに退院かなって帰宅した際、私は彼に真剣に言い聞かせてしまいました。
   「お前、15年は生きてくれなくっちゃ困るよ、元が取れない
   なんだか、遊女か芸者の置屋の主みたいな言い草です。
   それはともかく、元気になってからの"ぴよさん"の人生(鳥生)は順風満帆でした。手乗りインコ
  として家族の愛情を一身に受け、のんびりと日々を過ごしていたのです。
   で、半年ほどが過ぎてから…何の前ぶれもなく、転変が。猫がやって来たのです。
   その黒い猫は生後約一年、まだ大人にはなりきらない若猫で、拾われ者でした。やって来た時
  には夜だったため、最初の両者の対面は次の日明るくなってから。
   生まれて初めて猫を見たインコは…「これ、なに?なに?」と、好奇心もあらわにカゴに張り
  付いて見物。対する猫のほうでも「わあー、いじりた〜い!!」とばかりにカゴに突進、飛びついた!
   「だめだー!!!」
   もちろん、猫(注:名前は黒兵衛さんに決定)はキツいお叱りを受けました。そしてインコは、
  これ一発でしっかりと憶えました。「この黒い生き物は、自分にとって大変危険!」ということを。

   最初がそんなていたらくだったため、鳥・猫同居生活は不安のスタートに。でも良くしたもの、
  三回も叱られると猫のほうでも「これはかまっちゃいけないもの」と理解したようです。鳥カゴを
  見ないようになりました(エライ!)。
   ただ、手乗りだったはずの"ぴよさん"が、カゴから出るのをイヤがるようにはなりましたが。
   それはやはり、同じ家に猫が居る状況でカゴを出るのは怖いんでしょうねえ。
   そうこうするうち二年ばかりが過ぎて、ただ一度の事故が起きました。
   何を思ったか"ぴよさん"がカゴから自分で出てしまい(器用なインコにはよくあることです)、
  それを最初に見つけたのが"黒兵衛さん"だったのです。人間(私)が気がついた時には、猫が
  鳥に飛び付いてパアッと羽が散って…正直、もうダメか―と思いました。
   でも、猫は鳥を押さえつけただけでした。結局、インコが猫のツメでお腹に小さなケガをした
  程度で済みました(それでも獣医さんで傷を縫い、二週間通院して2万円ナリ)。
   教訓:鳥カゴの戸は、必ず洗濯バサミで留めておくこと。

   それ以降、事故は一度も起きていません。インコは最初こそ猫を怖がっていましたが、そのうち
  にはカゴのそばに猫が来ると、「脚を入れたら噛みついてやるぞ」と言わんばかりにくちばしを
  カチカチさせるようになりました。
   猫の方は、「これは無視」と決めた模様。でもきっと、目の前に飛んで来られたら…そんな理性
  は吹っ飛んじゃうだろうなあ。
   本能だから、仕方ない。人間が気をつけるしかありません。
   けれど今でも、ある特別な理由で猫がインコのカゴに手を出すことがあります。
   それは、家族にかまって欲しいのに、誰も相手にしてくれない時。
   ニャオニャオゴロゴロ、盛んにアピールしてるのにだ〜れも何にもしてくれない時、彼は最終的
  手段として「インコかまっちゃうもんね」行動に出ます。わざわざ鳥カゴまで行って、チョッカイ
  を出す。もちろん、インコは大騒ぎ。
   すると、どれだけ忙しくしてても人間が跳んで来ざるを得ない。
   そして人が来ると、猫は素早く逃げます。
   「叱られるのでもいいからかまって欲しい」…人間の子ども(または、子どもみたいな大人)と
  おんなじだあ、まるきり。

   それでもまあ、わが家の平和はずっと保たれています。人・インコ・猫、種類の違う生き物が
  寄り合う以上、お互い少しずつ我慢しあうのは致し方ないことです。
   そして互いに、出来る事と出来ない事とをわきまえて、無用な衝突を避けるようにうまく立ち
  回るのも、必要にして不可欠のことです。
   「平和」とは、小さな我慢と譲り合いと根回しの、積み重ねの上にあるものなり。
   この十年ばかりの間に、これが私の得た貴重(?)な真理であります。


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