「 "ヘア"と"ラビット"の違い 」 (4月17日)

    日本語では、ウサギ類を指す言葉は「うさぎ」ただ一つだけである。
    しかし英語には二つある。「rabbit(ラビット)」と「hare(ヘア)」である。
    辞書を引くと、「rabbit」は家ウサギ、「hare」は野ウサギと書いてある。
    しかし両者の違いは、実はそれだけにとどまらない。
    というのも、英語圏にはもともと2タイプの野生ウサギが生息し、呼び名の違いはそこから
   来るものと考えられるからだ。
    2タイプの野ウサギ類―それは、「穴掘りウサギ」と「地上性ウサギ」である。
    こころみに両者の違いを挙げてみると…

    「穴掘りウサギ」(アナウサギ)
     ・地下に巣穴を掘り、集団生活をする。
     ・子どもは巣穴で産み、生まれたばかりの子は赤裸で目が開いていない未熟な状態。
     ・地下生活に適応し、足が短め。危険が迫ると巣穴に飛び込んで避難する。
     ・おとなしく、人に馴(な)れやすい。家畜化されたウサギ(イエウサギ)の原種。

    「地上性ウサギ」(ノウサギ)
     ・巣穴は掘らない、基本的に単独生活である。
     ・子どもは地上で産む。生まれたばかりの子でも、すでに毛が生えていて目も開いている。
     ・地上生活に適応し、発達した長い後ろ足を持つ。危険が迫ると跳躍して逃げる。
     ・気性が激しく、人馴れしにくい。大変用心深くて捕まえにくい。

    このように、同じ「ウサギ」でも両者の生活スタイルはだいぶ違う。ほぼ別の生き物である。
    そしてお分かりだろうか、英語の「rabbit」は家畜化されたイエウサギだけでなく、原種の
   穴掘りウサギをも指している。
    つまり私たちに馴染み深い「ウサギ小屋のウサギ」は、"穴を掘るウサギ"だからこその
   「rabbit」(ラビット)なのだ。

    ところで、
    『カルドセプト』の無属性カードの一つである、「ルナティックヘア」。『不思議の国のアリス』
   に登場する「三月ウサギ」にちなむこのカードのウサギは「hare」の方である。
    彼はペット用ウサギとは全く違う、気が荒く足の速い地上性のノウサギだ。
    だから、ウサギ小屋のウサギのイメージを思い浮かべてはいけない。
    でもちょっと待った、たしか「T」でのカード絵は白くて赤い目のウサギ(イエウサギ)だったような…。
    確認。(私は『カルドセプト コンプリートイラストレーション』を所持している)
    あー、やっぱり、白い毛皮に赤いオメメ。まぎれもなく家畜のイエウサギ。でも表情については、
   こちらの方が「イッちゃってる」感がよほど強くて好みだな。
    それはともかく…
    見た目に関しては、「U」のイラストの茶色ウサギの方が、ノウサギらしさは出ているようである。
    「ルナティックヘア」は「hare」、断じて「rabbit」じゃないのだ!

    「三月ウサギ」とは、「頭のおかしい様子」のことを言う。
    なぜこんな言い方をするのかというと…、
    ノウサギは大変用心深い生き物だが、繁殖期(早春)だけは事情が変わる。
    メスをめぐってオス同士が激しくケンカし、ケンカに熱中するあまり警戒心さえ薄れてしまう。
    ものすごく目立つところで取っ組み合いをしていても、気がつかないのだ。
    ノウサギ達のそんな"恋の狂騒ぶり"を見て、昔の人は「ウサギが月に憑(つ)かれている」と考えた。
   (英語圏では、気がふれるのはお月様のせいだとされる)
    それで、「繁殖期の見さかいのないウサギ」=「三月ウサギ」=「月に憑かれたウサギ(ルナティックヘア)」
   =「常軌を逸した、頭のおかしい人」という意味になったようである。
    しかしいずれにしても、「へえ」の対象にしかならない"ムダ知識"ではあるな。
    それでもまあ、「うさぎブック」に関心のある方は上記の事を覚えておいていただきたい。
    少なくとも、ペットのウサギをイメージしつつプレイするのでは「ルナティックヘア」に対して
   失礼ではないか―と思うもので。

    さて、
    日本の山野に普通に生息する野生ウサギは、地上性のノウサギだけだ。日本語にウサギ類を指す
   言葉が「うさぎ」一つしかないのは、そういった地域的な特性によるものだろう。
    ただしごく一部、奄美大島と徳之島にのみ、野生の穴掘りウサギが生息している。
    それは天然記念物、アマミノクロウサギである。
    この原始的な黒いウサギはしかし、人前にはめったに姿を見せない。
    一般の人が彼等の生活を知らない以上、地上性ノウサギとの違いも言葉の上には現われない。
    するとやはり、日本語の「うさぎ」は将来的にも一つでしかありようがないのだろう。


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