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       『 Fight 00 』

     ジュジュワッ!

     その一瞬、
     オレのLev3「セージ」は黒い炎に焼かれて消えた。

     「ちっくしょ、ダッせー手ぇ使いやがってよ」

     そろそろ"屋根"(ランプロ)つけなくちゃな……
    そう思ってた矢先だった、ヤツめ、引き撃ちしやがって。   ※引き撃ち:ドローしたスペルカードを
                                                即座に使用すること

     もちろん、ヤツはその後のダイスでオレのものだった
    Lev3「地」土地を通過、そして「領地コマンド」実行。

     「ちぇッ!」

     それまで「セージ」の隣にピッタシ付けてたヤツの
    「バーサーカー」がゆうゆうと跡地に「移動」してゆくのを
    ニラみつけながら、モニタの前でオレはつい舌打ちした。

     そして、
     「"タイマン"、やっぱ止めときゃ良かったかなぁ」       ※タイマン:一対一の対戦。
    思わず弱音を吐きそうになって慌ててアタマを振る。

     「負けてたまるかよ!」



     この夜、ネットに上がったのはAMの1時頃だったのに、
    オレは何でか『カルドセプト』のオンライン対戦に
    "あぶれて"しまった。

     いつも遊んでるメンツは、もうそれぞれに相手をみつけて
    卓を囲んでる。「困った、こんなことあるなんてなぁ……」
    なんてブツクサ言いながら対戦の相手が見つかるまで
    ブラブラ待っていたら、いきなり来たじゃないか、

     「テキスト」が(今時珍しいよな、オイ)。

     ――「当方"タイマン"戦を所望、Yes or No?」

     Yes!Yes、Yes、Yes!
     決まってるじゃないか!

     オレは対戦できる嬉しさに、あまり考えずに返事しちまった。

     で、舞台は「ロカ」、護符無しのシンプルなマップだ。
    ラウンドは「45」、サクサクやりたかったんで相手の
    言うままに決めたんだが、

     ――それが「間違い」の元だよ、考えてみれば。


     オレは「火」と「地」の見た目"猫"ブック、アイテムに
    "石"と"巻物"多め、守りを固くして相手の武器は      ※石:アイテム「ペトリフストーン」
    二枚入れの「ラスト」でバッチリ潰すぜ!の作戦。

     「侵略」は"確定"の時だけに控え、隙を見て        ※確定:相手領地を絶対に落とせる状況のこと
    終盤「ケットシー」を「ウィロウ」に交換、魔力を        ※ウィロウ:クリーチャー「オールドウィロウ」
    搾り取っての"逃げ切り"を狙うのが実は"本命"だ。

     しかし対戦開始後、相手――"ヤツ"の手札には
    クリとアイテムがやたらに多かった。そのくせ
    いいところで「シャッター」引いてきて、オレの
    「ラスト」の片方は壊されるし。

     ターンを重ねるたび、狭いマップのあちこちで
    熾烈な戦闘が起きる。オレの拠点の一方は"黒猫"、    ※黒猫:クリーチャー「グリマルキン」
    ところがその隣の「地」土地にヤツの「トロル」を
    置かれちまった。

     そいつが、オレの手札に高ストレングスクリが
    いない時に限って黒猫にちょっかいを出して
    きやがるんだ。
     必死に壁クリで「援護」しても、相手は「トロル」。
    返り討ちしきれないからいつまでも居座ってるし。

     「くそー」

     さらに中盤になって、ヤツは「マジボル」だの        ※マジボル:スペルカード「マジックボルト」
    「イビブラ」だの盛んに引き始めた。              ※イビブラ:  〃   「イビルブラスト」

     「ええ〜〜!」

     "猫"は屋根付きクリだからいいものの、          ※屋根付きクリ:単体瞬間スペル無効の
    「セージ」と、「ドラゾン」まで焼かれちまった。          クリーチャーをこのように呼ぶ。ほかに、
    ぬかったなあ、オレ。ランプロ付けてから上げりゃあ      「天然ランドプロテクトクリ」とも。
    良かったのに。

     なんて後悔してたら、ヤツのLev4「ガスクラ」(3連鎖)   ※ガスクラ:クリーチャー「ガスクラウド」
    踏むし。

     手札に「ティアハロ」はあるけど、ヤツの方には
    「カタパルト」が……。

     涙を呑んで通行料を払ったが、次のターン、
    オレのドローは二枚目の「ラスト」、もちろん         ※サビ:スペルカード「ラスト」の効果、対象
    「カタパルト」は"サビ"だ。                   セプターのアイテムを消失させた。

     見てろよ……ぜってー取り返してやるさ!

     そしてその誓い通り、次に回ってきた時には
    オレの「ニンジャ」が「ガスクラ」粉砕、やったー。

     後からやってくるヤツ、その手札に先制クリなし、
    さあ踏め、ダイス「3」を出せよ出すんだぞ!

     ――とまあワクワクしてたんだが、ヤツの
    ドローを見て真っ青になった。

     「デコイ」!

     わぁー、止めろ「3」だけは止めてくれ
    と、いきなり反対のことを祈りだすオレ。

     でもやっぱり、こんな時に限ってヤツの
    ダイスは無情にも「3」だ。

     もちろん、オレの「ニンジャ」は「反射」でアッサリ
    あの世に逝った。



     そんなこんなで取ったり取られたり、
    払ったり毟ったりの大接戦。オレもヤツも
    45Rぎりぎりに、ほぼ並んだ状態で
    "達成"間近になった。                 ※達成:勝利条件を満たした状態。

     もう、どちらが先に帰城するかで決着がつく。
    オレは砦まであと5マス、ヤツは4マス、
    そんな大詰め、ヤツは「ヘイスト」を引いた。

     「あっ!やられた!」

     そしてダイス目「8」、砦を通過、次に
    「7」か「8」が出ればヤツが上がりじゃないか。

     その時点でオレの手札は空っぽ(戦闘に次ぐ戦闘で
    そんな状態になったんだよ!)。やきもきしながら
    ドロー……おお、キー・カードの「ウィロウ」だ、やっと来た。

     そしてダイスは「5」、ビンゴ!オレの運も
    まだまだ、砦に止まったぞ!

     「良し、行け!」

     オレはためらいなく城一つ手前のLev5火猫    ※:火猫:クリーチャー「ケットシー」
    (5連鎖)を引っ込めて「ウィロウ」に替えた。

     「ヘイストが何だ、引きずり込んでやれ!」

     ヤツの手持ち魔力は「200」ちょい、そして
    さすがにこの節アイテムは尽きたらしい。ここで
    Lev5踏ませれば領地を手放さずにはいられない。

     そして、オレのブック(残り2枚)には
    「リコール」がある。勝ったな、オレ、やった!

     ヤツのターン、ドロー、

     「ディメンジョン(D)・ドア」             ※D・ドア:スペルカード、ランダムに移動。

     「へ?!」

     間抜けな(だったろうと思う)声を出して、
    オレはヤツの"すること"を眺めていた。

    ヤツは「D・ドア」を使用し、消えた。

     「何処だ、何処に出る!!」

     固唾を呑むオレ、その目の前のモニタに
    映し出される――
     「ヒラリッ」、ヤツの"青いマント"が
    ひるがえって着地を決めた土地は、なんと
    城をはさんでオレのウィロウと反対側にある
    「風」土地だ。

     「あり得ねえ!!!」

     城目の前じゃんよ、ヤツ、どーなってんのコレ!

     ――しかし落ち着けオレ、ヤツの「移動」は
    このターンもう終わり、オレには「リコール」が……

     って……!

     「わぁ〜、止めろ止めてくれ!」

     ほとんど絶叫した。ヤツが止まった「風」地は
    ヤツの「デコイ」が守ってる……そしてそのお隣に
    いるは、オレの……「バ=アル」(Lev1)。

     「デコイの"移動侵略"だけは止めてくれ!」    ※移動侵略:隣接地にクリーチャーを移動させて侵略する。

    「バ=アル」の土地は元の「風」から「火」に
    変えてあった。しかし、それがアダだ。

     「デコイ」、「バ=アル」の土地を侵略。
    "反射"攻撃するも「バ=アル」生き残り、侵略失敗。

     そして、「バ=アル」の特殊能力「手札破壊」発動、
    オレのたった一枚の手札はパーに。


     ……終わった……(ガックシ……)


     次、オレのターン、ドローはあれほど欲しかった
    「リコール」、でも生贄にするべき手札がない。


     使えない(涙涙ただ涙)、使えないんだよママン。

     何もできないままダイス、マップ最高の「6」は
    出たが、とうてい城には届かない。


     ヤツは次の自ターンで堂々帰城し、勝利した。


     オレは敗れた。


     次の日の朝、オレは姉ちゃん(隣の部屋なんだ)
    からえれー文句云われた。

     「あんたさあ、何夜中に一人で叫んでんの。
    またゲームしてたんでしょ、遊びで熱くなって
    意地張ってバッカみたい!」

     『フン!』

     オレはアイスコーヒー(お袋が近所のスーパーの
    特売で買い込んだクソマズなシロモノだ)を
    ガブ飲みしながら腹の中で毒づいた
    (面と向かって言ったら百万倍になって返って
    くるからな)。

     『うるっせえな、女にはわかんねぇんだよ!

     ……それにしてもヤツ、あの青マントのヒゲ男、
    今度会ったらぜってー勝つ!勝ったる、憶えてろ!』


     そう、それがオレと"ヤツ"との「因縁」の始まりだった。



                      ――「 終わり 」――

     註:ちなみに"青マントのヒゲ男"の使用ブックは、かの「リュエード」とは多少違う内容です。

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