「短編倉庫入り口」へ


       『 たゆたう水の匂い 』

     『遅くなった……』

     暗い深夜の街路を、ゼネスは独り歩いていた。
     ほとんど音をたてずに濡れた石畳の上を踏みつけながら、極めて足早に進む。
     一足ごとに気が急いて、荒く息を吐き息を吸う。今すぐにでも"飛び"たいほどだった。


    ――その日の夕暮れ時、街道はずれの宿に部屋を取り、弟子と共に軽い食事を済ませた後、
    彼は珍しく町まで「呑み」に出掛けた。
     「遅くなるかもしれない、その時は先に寝(やす)め」
     弟子の少女「マヤ」にそう告げ、すでに暮れなずんだ林の中の道を通り抜けて少し離れた
    「町」に出てみれば、さんざめく歓楽の灯はしかし、そこかしこでたった今点いたばかりの風情。
     あたりの街道すじから漂い出た人の影がたむろし、ゆらゆら、ほろほろ、つかの間の休み場所を
    探して細い路地の間を行き交う。
     通りに面した「店」はてんでに黄色な灯を燈し、物色する客の気を惹くべく化粧した女の
    白い顔がそれら明かりの下に薄い笑いを作ってぼんやりと浮かび上がる。
     時おり、ふと振り向いた客をさらに差し招こうというのか、ひらひら、ちらちら、白い手や
    腕がほのかに振れるのも見て取れる。
     だが女の酌(しゃく)など好まぬゼネスは、なるべく路地の奥の方、薄らさみしい影の
    より濃い方を求めてひたひたと歩き進んでいった。

     そうしてほとんど人の姿も影も絶えた路地の果て、彼はようやく、数人の男だけが黙って
    酒を飲んでいる「店」を一軒見出した。

     「店」の古い椅子に腰掛けると、主人と思しき老年の男がひっそりと寄ってきた。
     「うちは、これだけで」
     言いつつ、陶器の酒ビンとコップを卓に並べた。ビンから立ち昇る、強い酒の気が鼻をくすぐる。
     ゼネスは、それだけで人心地ついた気分になった。
     「いいな、最高だ」

     しばらくの間――
     カップに注いだ酒をちびちびと舐(な)めながら、彼はほとんど頭の中を"空"(から)にしていた。
     弟子のこと、カードのこと、宇宙の衰退のこと……日頃は逃れられずにいる諸々からひととき
    離れ、ただ"ぼうっ"として何も思い浮かべずに過ごす。
     眠る時さえ完全には"停止"しない彼の感覚も、今はその大方は働いていない。
     舌に乗る強い酒の刺激さえもが忘れられがちで、心地よい"酔い"の痺れが身体を芯から
    解きほぐしてゆくかのようだ。
     そうして、ただ呑んでいた。


     「……ん?」
     やがて彼の感覚を呼び戻したのは、戸外からの音だった。
     ザザァーーー、
     いつの間に振り出したのか、気がついた時にはすでに結構な雨脚が地を叩いていた。
     「店」の主人が急いで戸口に厚い筵(むしろ)を下ろし、おかげで内に灯したろうそくの
    煤(すす)の流れがゼネスの顔のあたりで澱みはじめる。
     どことなく甘い煙のにおいを嗅ぎながら、彼の耳はさらに屋根からの「音」を聞きつけた。
     タン、タン、タン……
     それは他所のもっと高い屋根から落ちてくる大粒のしずくの音のようだった、大きく絶え間
    なく響いてくる。
     「店」の少ない客たちはしかし、天候の変化もさして気にならぬと見え、いずれも悠揚迫らず
    雨音を肴(さかな)にさらに酒を進めている。彼らには家路を急ぐ必要がないらしい。
     だが、ゼネスはもう頭を「空」にすることができなくなっていた。

     ザザザァーーー
     雨音に囲まれて、独り待つ"少女"が見える。
     タン、タン、タン……
     水滴が降り込むのもかまわず、開け放たれたままの"窓"が見える。
     「そんなことはない、
     "あれ(彼女)"はきっともう寝ている」
     口にしてはみたものの、引かれる。
     思念が、視線が雨の中を走って行こうとする。
     だが、だからといってすぐさま飛び出してゆくのは癪(しゃく)だ。
     自分はそんな男ではない、そう思い直す。
     「"あれ"は"あれ"、俺は俺だ」
     彼は結局もう一本酒ビンを頼み、他の客らと同じように"雨が止むまで"との態度で
    「店」に腰を据えていた。
     ――気掛かりばかりがめぐる頭と胸の内を抱え、急に苦くなった酒を少しずつ口へと含みながら。


     しばらく――いや、かなりの時間が過ぎてからようやく、雨は小止みになった。
     ぽつん、ぽつんとまだ水溜りにまばらに落ちてくる雨滴の音を聞きながら勘定をすませ、
    ゼネスは帰路に着いた。
     「お客さん、"外"へお帰りですか。もしそうならお気をつけなすって、この時期こんな雨が
     降った後は霧が出やすくなりやすから」
     金を受け取った主人がぼそりと云うのを
     「そうか」
    とだけ受け流し、彼は歩き始めた。


     細い路地を今度はひたすら反対側に伝い、町の"外"を目指す。先にはいくつもまたたいて
    いた歓楽の灯は今はぐんと数を減らし、しかし時おり、壁をへだてて嬌めいた声が聞こえてくる。
     彼の「気掛かり」は次第に大きく、また重くなっていた。"もっと早く帰ってやれば良かった"
    ――遠い酔客の声の裏側ににじむさみしさが、その思いにさらに拍車をかける。
     『町を抜けたら"飛翔"の呪文カードを使おう』彼はそう決めることで後悔をごまかし、
    まぎらわせながら脚を動かした。
     静かな街路に、時おり雫の垂れる音が響く。敷石の溝に落ちる、「ぴちょん」と。
     降った後の夜の路地を満たす大気は濃い水に似て、肌にまつわり衣服を湿(しと)らせ、
    息を吸うたび雨の匂いが肺に染みる。
     その大気を掻くようにして、彼はとにかく、ひたすら足早に歩いた。
     本当に飛ぶような速さで宿へと至る道を進んで行った。


     ――ところが、町を抜けて林に入ったあたりから、急速に濃い霧が立ち込めてきた。店の主人が
    心配してくれた通り、「外」へ行く者を阻むかのように、霧は彼の眼から帰り道を隠してしまった。
     「チッ」
     思わず舌打ちし、ゼネスは周囲を取り巻く乳白の色を眺めた。
     本来ならば、霧に包まれたぐらいで方向を見失うような彼ではない。左の竜の眼の働きにより、
    地磁気を感じ取ることができるからだ。
     だがしかし、今彼の"感覚"は微細なノイズに悩まされていた。何らかの原因――恐らくは
    地中にある磁鉄鉱などの磁気を発する鉱物の影響――により、常の如くに地磁気を頼りに方向を
    定めることができない。
     早く帰りたい、そう焦る気持ちばかりが先に立つ。それがため、ただでさえ乱れている感覚が
    さらに混乱する。
     試みに"飛翔"を使って霧を飛び越そうとしてみた。
     だが白い空間は思いの外上空まで広がっており、充分な移動距離を確保できる飛翔高度では
    霧の中から抜けることができない――とわかっただけだ。
     端なくも、ゼネスは霧の林の中をすっかりと迷ってしまっていたのだった。


     こんな時、いたずらに動くのは愚かなことだ。そうと知っている彼は立ち止まり、霧が薄く
    なるのをじっと待った。元来気の長い性質ではないが、事態をこれ以上悪くすることだけは避けたい。
     待っている者がいる。そこへ、一刻も早くたどり着きたい。
     はやる心を無理にも抑え、霧の流れを追う。微細な水粒はしかし、あちらへこちらへ気ままな
    動きを見せるばかり。
    ――と、その眼に「チカリ」光るものが見えた。
     澄んだ、水の色をした小さな、人の指の先ほどの「光」。ゼネスの顔ぐらいの高さでこの霧の中、
    四〜五歩ばかり離れた場所に控えめに輝いている。
     『あれは……Ikse(イクス)だ、なぜ……』
     Ikse(イクス)、水の精霊力を導く呪文言語。魔力を持つ者がこれを唱えれば、四大元素の
    うち「水」の力を示すことができる。
     しかし、今彼の近くに人らしき気配などは何も無いはずだった。唱える者がいないのに"力"を
    示す「光」があるとは何事か。
     不審に思い、彼はそっと「光」に近づいた。
     すると、「つつっ」近づいた分だけそれは遠ざかった。
     そして遠ざかった場所で、動く前と同じように静かにまたたいている。
     「何だ?」
     怪しい、不気味だ。だが……その割には「光」そのものは美しい。涼しく澄みきった、それで
    いてどこか懐かしい気配を漂わせる。
     邪悪さ、というものは感じられない。
     その己れの感覚を信じ、ゼネスは思い切って水の色の「光」を頼りに霧の中を進んでみる
    ことにした。
     近づく、遠ざかる、近づく、また遠ざかる……
     濃い霧の中、足先で注意深く地面を爪繰りながら、まるで「光」に道案内をされるように彼は
    歩いていった。


     ゆっくりと、だがだいぶ歩いた頃、ようやく風が出て少しずつ霧が薄れてきた。
     水の匂いがする、ごく近くで、こぽこぽ、ふつふつ、ささやかな音と共にたゆたう。
     「もう目の前だよ」
     いきなり低く女の声がした、ゼネスは慌てて後ろに跳び退(すさ)った。
     「誰だ!」
     さっと風が吹き過ぎた、霧が払われて「光」がまざまざと現れる――それはひとりの「女」の、
    ぴんと立てた一本の指の先に灯っていたのだった。
     「お前は……」
     息を呑んだ、黒くしっとりと長い長い髪、透き通るような青白い肌、すらりと立つ姿、そして
    碧いような水の色をした瞳に、紅い薄い唇。
     「リリス!」
     叫ぶなりカードを一枚取り出し、構えた。
     リリス――水辺の女吸血鬼、カルドセプトのカードから呼び出される"力"のひとつ。
     『こいつを操るセプターは何処にいる……!』
     謀られた、そう思って周囲を見回し探った。しかし、やはり人気は無い。目の前の「女」の他
    には誰も、何もいない。
     紅い唇が笑った。
     「ふふふ……ぼうや、あんたには見つけられないよ、わたしは」
     また風が吹いた、霧が晴れた、「女」のすぐ後ろに小さな池がある。
     水の匂いはそこからやってくる。
     「せっかくここまで連れて来てあげたのに、なんて怖い顔をしてるんだろうね。
      そんなにわたしが恐ろしいのかい、ぼうや、偉そうにヒゲなんか生やかしてるくせにさ」
     切れ長の眼が細くなった、声をたてずにくつくつと含み笑いする。
     「黙れ、何が"ぼうや"だ」
     言い返しながら、ゼネスはカードの"力"を放つ間合いを測っていた。じりじりと手を移動させ
    相手の隙を狙う、電光の矢「マジックボルト」を叩き込むために。
     「おや、ぼうやでないと言うのかえ、あんたは。じゃあ証拠を見せておくれでないか」
     すすぃっ、と地上を滑るように、いや本当に滑ってやにわに目の前に来た、間合いが縮んだ。
    黒い長い髪が流れてさわさわ、ゼネスのほほに触れようとする。
     『近すぎる!』
     脂汗を浮かせた彼の眼を、女の眼がのぞき込んだ。
     「わたしと"遊んで"くかい?兄さん」
     「消えろ!!」
     腰の短剣を抜きざま払った、だが女は跳んだ、高く跳躍して後ろの池に飛び込む……
     かと見えたが、水面で彼女の身体はピタリ停まった。足の裏を水の表につけ、そのまま静止
    している。ゆらり、ゆらり、足の下からいくつも丸い波紋が順繰りに広がる。
     ゼネスは、剣とカードを握って身構えたままじっと相対した。
     だが女は、なおも笑って言った。
     「あははは、ちょいとからかっただけさ、さあ、もうお帰り、ぼうや。
      あんたのいい人のところへ帰んな、お帰りよ、さっき教えただろう、すぐ眼と鼻の先だ。
     よく見てごらん、すぐにわかるはずだから」
     言いながら、足の先からつーーッと水の中に沈んでゆく。長い髪が水面に大きく黒く開いた。
     「さよなら、ぼうや」
     首だけになって言い、直後、「とぷんっ」頭の上まで沈みきった。
     波はほとんどたたなかった。水面はすぐに静かになった。
     「人のことを"ぼうや、ぼうや"と気安く……あっ!」
     思わず額の汗をぬぐう手を止めた。
     暗い水の上に何かが浮き上がる、手のひらにのるほどの薄い何ものか……カルドセプトのカード。
     ゼネスが見守る中、"それ"はしばらく水面でくるくると回りながら漂っていた。が、やがて
    ぴんと立ち上がり、そのまま"すっ"、水の中に引き込まれた。
     身動きできないまま見ていた。しかしその後はもう、何も起きない。ぽこぽこ、ふつふつ、水の
    湧くようなかすかな音がする。
     水の匂いが流れてくる、霧はもうすっかり消えていた。
     「ふーーっ」
     大きく息を吐いて顔を上げた、池の向こうの木立の合い間に黄色っぽい光がひとつ、見えた。

     呪文で点けられた灯、人家の、常夜灯の明かりだった。


     木々の葉陰にちらちらする見慣れた光は、ゼネスを池の傍から人家のある場所へと連れ出して
    くれた。藪の合い間につけられた細い細い道をたどって家々の影が黒く連なるそこに出てみれば……
     なんと、彼が弟子と取った宿は本当に眼と鼻の先だ。裏口の側が見える、町に行く時は表のほう
    から出て行ったため、こちらにも林を抜ける道があるとはこれまで全く気がつかなかった。
     しばらく立ち止まり、自分の位置をよく確認し終えるとゼネスは再び足早に宿に向かった。
     裏口は開いていた(むしろ表の方が閉まっていたかもしれない)。彼らの部屋の窓は表側の
    壁についており、弟子が寝ているかどうかはここからではわからない。
     だが、すでに夜は相当な深更であった、もう眠ったものと考えるのが常識だ。
     足音を忍ばせて階段を登り、あてがわれた部屋のドアの前に立つと、彼は合鍵を出してから……
    少しためらいながら音を抑えたノックを二回した。
     そうして鍵穴に鍵を差し込もうとすると、
     キィ……
     ドアは自ずから、静かに向こう側に開いた。
     「マヤ、何だ、お前は」
     眼をこすりながら、弟子の少女が立っている。
     「まだ起きてたのか」
     師が思わず難詰すると、
     「だって」
     ややふくれたような顔をして、弟子はそそくさと後ろを向いた。
     狭い部屋の隅に並んだ二つのベッドのうちの一つの脇に、小さな呪文の光が灯されている。
     そして、使った形跡のない夜具の上には散らかった数枚のカード。
     「お前と俺とでは身体の出来が違うといつも言ってるだろうが、明日も遠くまで行くのに
    何でもっと早く休まない」
     待たせて悪かった、そう思いながらも、彼はどうしても小言しか言えない。
     「だって」
     少女は明かりを消し、もそもそと自分のベッドに上がると頭の上まで夜具を引き被った。
    (カードは、持ち主の意思に従いとっくに"消えて"しまっているだろう)
     ひやり、ゼネスのほほに湿った風があたった。
     部屋の窓が片方、開けっぱなしになっている。
     彼が窓に近づいて締めきった時、
     「ゼネスの、ばか」
     夜具の下からつぶやく声が洩れ出た。



     翌日、二人で遅い朝食を摂っていると弟子がこんな話をはじめた。
     「あのね、昨日この宿のお姉さんから聞いたんだけど、この近くに占いのできる泉があるんだって。
      ね、寄ってみたいな、いい?」
     「"泉"……だと?」
     昨夜の記憶は生々しく、ゼネスもふと興味を引かれた。リリスが沈んだのは「池」だとばかり
    思っていたが、「泉」とはそれのことか。

     宿を出ると、彼は弟子の言うままについて行った。はたして、彼女が宿の者から聞いた道と
    いうのは、ゼネスが深夜に通ったばかりの裏手からの抜け道である。
     藪の中をくぐるようにして細い細い道をたどり、師弟はやがて林の中の「泉」に出た。
     『昨日の"池"だ』
     霧に包まれていた時にはよくわからなかったが、「泉」は鬱蒼と茂る木立の下に、こじんまりと
    湧き出していた。水は澄んで冷たそうだが、水面は暗い。緑陰を映して――というよりも、水底が
    見えないほど深いのだ。
     弟子にはあえて、あの出来事については何も話していない。彼は口を閉ざし、「女」と対した
    水面を見つめた。
     ぽこぽこ、ふつふつ、かそけき音がする。
     「この"泉"って、水がたくさん湧くのに流れ出してる川がひとつもないんだって。
      底の方に水の湧き出す穴と流れ出す穴とがいくつもあるから、それで年中おんなじぐらいの
     水の量なんだって。
      ……不思議だね、地下の川でよその水とつながっているなんて……面白いよね、もぐって
    見てみたいぐらい」
     マヤはしゃがみこみ、彼女もまた水面を見つめている。その言葉を裏付けるように、黒々とした
    水面にはやや盛り上がった部分とへこみ加減の部分とが混在していた。
     流れは確かにだいぶ複雑のようだ、ゆるゆると絶えず水がめぐり、あちこちで小さな渦をつくっている。
     冥きより湧き出でて、また冥きへと流れ去る水。
     さらに……
     「泉」の傍には祠(ほこら)も建てられてあった。そこには小さな扉が付いていて、厳重に封を
    されている。
     納められているものは、「何」だろう。
     「それでね、見てて、願いのある人は泉に来てこうやって……」
     言いながらマヤは宿の庭からもらった一輪の花を水面に差し出した。ひらひらと波打つ大きな
    花びらを広げた、明るい橙色の花――
     そっと、水の面に浮かべた。
     つつーっ、橙色が水の上を滑ってゆく、時おりくるくると回転しながら、流れにそい、鮮やかな
    輪郭が暗い水面にくっきりと映える。
     「ああ……ほんとだ、聞いた通り……お花、ひとりでに流れてく……」
     浮かみたゆたう花をじっと見てため息し、少女はさらに言葉を続けた。
     「花を浮かべて……もしその花が泉の中に引き込まれたら、願いがかなう"しるし"なんだって。
      泉の精霊が教えてくれてるんだって」
     彼女の花はまだくるくると回るだけで、泉の中ほどをゆっくりとめぐっている。
     「お前は今、何を願ったんだ」
     ゼネスは問うたが
     「……言わない、秘密」
     教えてもらえなかった。
     そんなことを云ううち、水面の花はさまよう動きをぴたりと止めた。
     くるくる、くるくる、軽やかに回りながら静止している。
     『あっ』
     気づいた、それは確かに、"あの時"カードが沈んだ場所だ。
     と、思った瞬間、
     ちゃぷ
     橙色は水中に引き込まれ、消えた。



                                    ―― 終 ――


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