夕日が沈む。山の畑を照らして。
豆の葉に芋の葉に黄金(きん)の陽が満ちる、萎れた葵の花にも赤い光の注ぐ。
夕日が沈む。
あなたは立っている。畑仕事を終えて清水の流れに鍬を浸しながら。
ゆっくりと顔を上げて夕日を見てる。
黒い稜線の向こう側にゆるゆる移る太陽の、その投げかける今日の最後の光を見る。
右の眼に左の金赤の眼に、空を、山を、陽の色を映す。
広く世界を映す。ずっとそうしてきたように自然に。
私は知っている。あなたが山道を歩く時、今はその足先は小さな草の花を避(よ)け、
慌てふためいて走る蜘蛛や蜥蜴(トカゲ)もそっとやり過ごすことを。
少しも選ぶこと迷うことなく、ごく当たり前に彼らを認める頷きを。
やがて、あなたは小川の流れから鍬を上げて泥の落ちた刃の白い輝きを目にする。
その時、あなたの唇は微かな笑みの形を作るだろう。
人は、変わる。
けれど、何故に変わるのか。が、未だ私にはわからない。
人は変わる、わからなくてもでもそのままに、この目の前で。
変わりゆく所以(ゆえん)を探り出す暇(いとま)さえ惜しいほどの急ぎ足で移る。
私はあなたを見ている。
次々と現れる様々な「あなた」を、ひとりも見逃さないように静かに、息を潜めて。