そんなに遠くはない昔に、私たちが住む国は戦争をした。
"その人"の名の元に、"その人"の御為(おため)と称して戦争をした。
そうして他の国の人をたくさん殺し、
この国の人もまたたくさん殺された。
戦争が終わったと皆が知ったのも、"その人"の言葉によってだった。
戦争の時が過ぎ、戦争に荷担したとして責任を問われた人々など、ほんの一握りのみ。
"その人"の名のもとに、"その人"の御為と殺し殺されたあまりにもたくさんの人。
けれど"その人"はついに罪を問われることなく、
その位を追われることなく、
自ら位を降りることもしなかった。
なにより、この国に住まう大勢の人がそれを望まなかった。
"その人"の実体はとうに無いが、私たちの内には今もなお、"その人"がいる。
そのことを認め、その罪を問わない限り私たちは世界と向き合うことが出来ない。
「松本智津夫」は「麻原彰晃」としての罪を問われているが、
今もなお彼を慕う彼の信者たちを、どうして私たちが嗤(わら)うことができるものか。
その姿は、あまりにも私たちに似通っているというのに。
幻想にすがることなく独り立つのは難しいことではあるが、
それでも私は心がけよう。
"その人"と私たちの罪の有り様を、いつまでも忘れずに考えつづけてゆこう。