糸を垂らす。
冥い、深い海の底に向けて、細い糸を垂らす。
私は波の上にあって、糸端を持つ。
引かず、手繰らず、漂うままに、伝い来る水底の気配を聞く。
密やかに、秘めやかに、耳をそばだて眼を見開いて。
何もかも「真っさら」にする。
プロット、期待、思惑、願い――ジャマなものは全部全部カッコにくくる。
くくって、「さら」にして糸の響きにだけ絞り込む。
私を糸にする。一本の、長い深い糸。
あなたの語る言葉は何、
あなたの願う思いは何、
あなたの――表わす表情、してしまう行為は何故。
糸になって知りたい、探りたい。冥い深い水底の、闇の奥へと沈む。
沈んで、揺らぐ。あなたの声を聞く。
未来はいつも、過去からやってくる。
私はいつも、その糸の端を握っている。