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         「 糸を垂らす 」 (2008年6月8日)


     糸を垂らす。

     冥い、深い海の底に向けて、細い糸を垂らす。


     私は波の上にあって、糸端を持つ。
     引かず、手繰らず、漂うままに、伝い来る水底の気配を聞く。
     密やかに、秘めやかに、耳をそばだて眼を見開いて。



     何もかも「真っさら」にする。
     プロット、期待、思惑、願い――ジャマなものは全部全部カッコにくくる。
    くくって、「さら」にして糸の響きにだけ絞り込む。
     私を糸にする。一本の、長い深い糸。


     あなたの語る言葉は何、
     あなたの願う思いは何、
     あなたの――表わす表情、してしまう行為は何故。

     糸になって知りたい、探りたい。冥い深い水底の、闇の奥へと沈む。

     沈んで、揺らぐ。あなたの声を聞く。


     未来はいつも、過去からやってくる。
     私はいつも、その糸の端を握っている。

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