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        「 口づけ 」 (2007年3月27日)


       ほころびかけた薔薇のつぼみ。
       淡く色づいたそのいただきを、わたしは
       唇の先でそっとついばみ、ついばみ、
       やがて舌をのばし重なり合う花びらを押し分けて、
       匂やかな深みへと入り込んでしまう。

       ちろちろと舌先をうごめかせ
       薄いひとひら、ひとひらをまさぐり、付け根を撫で、そうして
       ついに奥底の花芯へと至る。

       まだ、たれにも触れられたことのない、震える場所。
       すでにたたえられた蜜を、わたしは
       すくい取り、すすりあげてむさぼり、味わい
       熱く痺れた舌をさらに執拗にのたうたせ
       甘い粘液を花びらの内側にもなすりつけてまわる。

       みどりの薔薇の茎、
       わたしの手が握るそれは棘を立てて指を、肌を刺す。
       茎に葉に生ふる細く鋭い爪、断末魔の如くに痙攣させ
       なぶり主の身体にあまたの引っ掻き傷をつけながら
       花びらの重なりをすぼめ、肉厚の侵入者を深く強く押し包む。


       『止まれ』


       秘めやかな呪文の言葉、胸につぶやきつつ
       陽光の輝く眼を逃れ
       わたしたちはなおも、湿った影のふところを求めてむつみあう。



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