その午後、陽はけだるく風もとろりとろりと眠たげに天地の間によどむ。
蜜のごとき光、虚空に瀰(び)漫し、その下にて森の木々のみは互いに枝葉を差し重ね、
陰をば作りたる。神の目をもあざむく、濃き緑の闇をばみごもりたる。
彼らはそこにひとつの「秘密」をば隠し持ちたる。
鬱蒼たる森の奥、王たる大樹の下に「少女」は立てり。
緑に波打つ髪、木の葉綴りたる衣着たる彼女は、旅人なる我を待ちて居たり。
微笑とともに差し出だしたる、赤き実ひとつ。
白き指にはさまれしつぶらなる色、我は欲するままに細き手を捕らえ、そを口にす。
されば、かの時なれ、我が罪と罰との味を覚えたるは。
罪は棄て去りし記憶なれば酸く苦く、
罰はかの唇にして甘けれども正気の毒を含む。
我は忘却に拠りて旅人となりしものを、毒、身の内に入らば正気目覚めて想起へと至る。
忘却を脱するは苦しきことなるかな、かくて罪を噛み締めて罰はますます甘し。
緑の髪の少女、唇の奥にはさらなる毒。
しかして我はもはや毒をむさぼるの他に生くる術なく。
梢に巣くう蛇(くちなわ)の細き瞳孔ありて、我らを見下ろしたる。
先割れの舌ちろちろと、からみあう吐息を舐めるが如くに蠢く、その緑陰の午後に。