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       第12話 「 水の上に映る  」 (6)


    その晩の夕餉は釣ってきた魚の塩焼きだった。己の釣果であれば焦げたヒレまで愛おし
   いようで、ゼネスは骨だけになるまできれいに食べ尽くした。うっすら赤い身がよく締ま
   った、野趣あふれる味だった。
    ウェイ老はいつものように淡々と箸を動かしていた。彼の人は調理の前、客人の釣果を
   手桶の内に眺めた際に何やら深くうなずいたものであった。が、その他に声を発すること
   はなかった。
    一同、今夜も静かな食卓であった。
    「ごちそうさま、お魚おいしかった」
    食べ終え、マヤが卓に向かって一礼した。
    「ゼネスがこんなに釣りが上手だなんて、ホントに驚いた。
     ウェイ先生は釣りはなさいますか?」
    少女に問われ、老爺はかすかに笑う。
    「私もたまさかには糸を垂れまする。針をつけぬ糸ですが」
    「えっ、針つけないんですか? それじゃ釣れないでしょう?」
    意外な返答に彼女は驚き聞き返した。だが相手は落ち着いたものである。
    「"一(いつ)"になるための釣りにござれば、針は不用のものにて」
    それだけ言って目を瞑(つむ)った。ゼネスの箸が止まった。
    『"一"になると言った、今』
    彼の内に、周囲と一体になるあの独特の感覚が甦った。老剣士が言うのは、あの体験の
   ことではないのか。
    『この人は、知っている』
    確信した。総身が引き締まる。そこへ、
    「ゼネス殿」
    ぽん、と声が飛んできた。打たれてハッと向かいの顔を見る。
    「明朝の稽古を楽しみにしておりまする」
    しごく穏やかな声音であった。だが、ゼネスは肚の底から武者ぶるいした。
    「こちらこそ、よろしくお頼みする」
    箸と椀を置き、深く頭を下げた。


    「ねぇ……」
    夕食の片付けが済むと、ゼネスはマヤに呼ばれて小屋の裏手に引っ張ってゆかれた。何
   を訊かれるかは概ね見当がついていたが、黙って肘を引かれた。
    「さっきウェイ先生が仰ってたこと、何? ゼネスはわかるの?」
    「"一"のことだな?」
    小声で問うた弟子は、師の返事にこれもひっそりとうなずいた。辺りは暗く湿った夜気
   に満ち、虫の音が切れ切れに響く。月は雲に隠れがちだった。
    「今日、釣りをしていた時に感じた。己れが周囲の全てと一体化したような……不思議
   な感覚だった。その間は常には見えないものの動きが光として目に見えた。ウェイ老の云う
   "一"とは、多分にそのことだろう。だが、俺にもこれ以上は説明ができん」
    聞いて、「ふ〜ん」と弟子はしばらく考え込む。首をひねり、
    「じゃあ、ゼネスは会得できたの?」
    やおら、また訊かれた。
    「わからん」
    正直に答えた。というか、それしか答えようがない。
    「とにかく、明日だ。明日の俺とウェイ老との手合わせをよく見ておけ」
    そう告げた。少女はまたうなずいた。その眼が一瞬、青いような光を帯びた。


    翌、早朝。いつものように日の出前に起床し、顔を洗って水を飲むと三人は裏の林間に
   ある稽古場に立った。
    空は薄く曇っていたが、大気は清々しく澄んでいた。夏は暑い盛りをようやく過ぎて、
   木々の葉は黒いような濃緑に煮詰まっている。葉の陰に太り始めた実をつけた樹もあった。
   いつも通りの風景が、少しずつ季節の移ろいを見せている。
    そのただ中、乾いた稽古場の円形の土の上に、まずゼネス、次いでウェイ老の士が踏み
   入って立った。どちらも木刀を手に、整然と対峙する。
    「では、始めましょうか」
    士が呼びかける。ゼネスも応えた。
    「お願いをつかまつる」
    一歩、脚を引いて構えた。両手で刀を正面に立て、押し上げる気持ちで軽く掲げる。
   正眼の構え、士も同じだった。大気がさらに澄み渡り引き絞られてゆく。
    『「水」を」
    ゼネスはまた、桶に流れ入る水を脳裏に思い描いた。「水」を入れる、流入させる、受け
   入れる、全てを。光を、風を、闇を、音を、息吹を、熱を、生命の熱を、振動を。 
    満ちてきた、「水」が。ひたひたと内に流れ込み渦を巻く。頭の上までとっぷりと浸かった。
   すかさず、解き放つ。眼、耳、鼻、口、肌、官能の受容器の全てを。
    『――おお!』
    見えた。目の前にひとすじの光。しなやかに細く、細いが端然として青白くそびえ立つ。
   ひと目でウェイ老の剣の気と知れた。彼はその剣気に対した。
    見つめていた、じっと穏やかに。青白い光のすじ、それは色とは裏腹にほのかな温もり
   を含み、静まっていた。だが決して止まっているわけではない、激しく高度な運動が光の
   中核を成していることに、彼はすぐに気づいた。振動している、絶えず、強い力を裡に閉じ
   込め練っている。束(つか)ねている。
    「美しい」
    思った、いや感じた、素直に。腹の底から全身全霊を挙げて。これほど美しさを感じた
   体験はかつてなかった。彼は喜びをもって光を見つめた。
    そのまま――どれほどの時が過ぎたものか、「水」の中に"一"となったまま、ゼネスは
   時間の観念というものをほとんど失していた。美しいひとすじの光、それを見つめそれと
   対することさえできていれば、彼には他に何も要らない。「水」と共に呼吸し、光の振動
   に感じて飽くことがない。長い長い間か、それとも一瞬のことか、いずれであれ気に留ま
   ることではない。 
    しかし、
    「む……」
    目の前の光の色がかすかに変じた。青白さにわずかだが赤味が混じる。と同時に振動に
   も変化が起きた。ズン、と熱を帯び重くなる。状況が理解された。
    圧力なのだ、この赤味は。打ち込もうとする意志が刀に込められつつある、それゆえの
   赤さ。
    「来る!」
    赤が灼熱した。電光より疾く突き出される、動きがはっきりと眼に見えた、考える先に
   身体が反応した。腰をひねり、半歩左に体を開いて開きざま下から上に打ち上げた、光を
   跳ね上げた。
    「パンッ!」
    大きな鋭い音がした。我に返った目に木漏れ日が映る。ゼネスは木刀を振り上げた姿勢
   を保っていた。彼の前に士、その突き出した木刀は切先から三分の一ほどを切り飛ばされ
   ている。先刻の音は木刀が木刀を断った音だった。
    「お見事」
    ウェイ老が声を発した。士が姿勢を解き、一礼する。そしてすたすた、円の上を移動し
   て反対側の外にある一本の樹に向かった。その上方の幹に手を伸ばし、
    「むっ」
    力を込めて何かを引き抜く。飛ばされた木刀の先だった。
    「ついに一本、取られ申した」
    老剣士が笑った。「取られた」と言いながらも何がしか愉快そうではある。
    「ご教示に感謝する、この通り」
    ゼネスも刀を引き、深く腰を折った。まだ現実感は薄い。だが清々しさがあった。勝利
   した、達成した、といった突き上げるような感興とは異なる、身も心も清澄が極まって透
   明になったかのような心持ち、とでも云うか。
    「今日はこれにて、朝餉にいたしましょう」
    さばさばと言い、老剣士は士と連れ立って林間の小径を下っていった。
    気がつけば周囲はすっかりと明るい。朝餉はおろか、すでに日は中天に近いところまで
   昇っていたのだった。


    朝、というよりもはや昼に近い食事をそそくさと済ませてゼネスはいつものように畑に
   出た。鍬を振り石ころを拾っていると、すぐ後に立つ者がある。
    「ゼネス……すごかったね、さっきは」
    弟子の少女だった。日に焼けた頬を紅潮させ眼の光が青みがかっている。興奮の態だ。
    「お前は、何を見た」
    師は地上に目を落として問うた。
    「何って――ゼネスもウェイ先生も、じぃっと立ち会ってたんだよ、長いこと。それは
    もう本当に長い長い間。それでもお互いの間合いはずっと張り詰めてて、ピンとして髪
    の毛一本の隙間もないみたいですごかった。
     驚いたんだよ、ゼネスがあんなに待てる人だったなんて」
    「"待てる人"だと?」
    思いがけぬことを言われた。土から目を上げて弟子に向き直った。驚いたのはむしろ、
   彼の方だ。
    「だって、ゼネスはいっつも自分から突進してぶつかってっちゃう人だったじゃない、
    昨日自分でもそう言ってたけど。引いて受ける、そういう戦い方したとこなんて見た
    ことなかったもの。だから私、あなたのことは砕けてもいいからぶつかってく人だと
    思ってたの。だからウェイ先生から一本取るにしても、ぶつかってく力をうんと高め
    てやるんだろうな、て見てたし。
     でも、今日は違った。ウェイ先生の剣の気を受け止めてるみたいに見えた。それも、
    長い間静かに受け止めて持ちこたえ続けてる。なんだか、ゼネスの中に別の人が入っちゃ
    ったのかと思った」
    「俺は――」
    歯切れ悪い声になった。あの対戦で自分が「引いて受ける」つもりだった憶えはない。
   弟子の興奮と弾みぶりを前にしても、まるで夢の中のセリフとしか聞き取れない。
    「美しいと思っただけだ。美しいものを見て、それで満ち足りていた、あの時は」
    「"美しい"って?」
    今度は弟子が聞き返す番になる。
    「ウェイ老の剣気が見えた、青白い光のすじだった。それを美しいと感じて心を寄せた。
    剣の動きを感じ取ることができたのは、きっとそのためだ」
    「"一"になるって、そういうことなの?」
    重ねて訊かれた。だが、
    「わからん、まだはっきりとはわからん、俺にも」
    彼には今、そう答えるより他ない。それでも、何がしか自ずから認めること、伝えるべ
   きはある。
    「ただ……昨日の釣りを通じて不思議な一体感を得た後で、俺は花を見て"美しい"と思
    った。とても心惹かれた。花に対してそんな気持ちになったことは初めてだ。そうして、
    その花をお前が髪に挿したら、花もお前も引き立て合ってさらに美しいだろうと、そう
    思った。いや、その思いを自覚したのは実際にお前が髪に飾ってくれたのを見てからだが。
     これらのことと今日の一本と、どう辻褄が合うのかはわからない。だが、もし"美しい"
    と感じる心が勝利に導いてくれたのだとすれば、それはマヤのおかげだろう。ありがたい、
    感謝する」
    そこまで言って、ようやく彼の中で何かが落ち着いた。昨日からの一つ一つの経験が、
   くっきりと立ち上がって像を結んだように思える。彼はその落ち着きをもって弟子を見つ
   めた。
    少女の顔にほのぼのと赤く血がのぼる。
    「ゼネスったら」
    羞恥か、それとも喜びか。とび色の瞳がいく分かうるんで見える。彼女は「見ないで」
   とは言わず、しばらく師の顔を見返していた。
    山の風が渡り、さわさわと斜面の草木が騒いだ。



    その夜、質素な夕餉を食して茶が入った頃合いを見計らい、ゼネスはマヤを促しウェイ老
   の前に二人共にかしこまった。
    「いよいよ、出立なされますか」
    まだ何も言わないうちから老爺に先回りされた。が、気を取り直して、
    「思わぬ長い間、お世話になってしまった。貴兄のご指導により、我らは共に得難いもの
    を得ることができた。この通り心よりの感謝を申し上げる」
    精一杯の謝意を表して師弟はその場に平伏した。
    「いや、いや、どうぞお顔はお上げくだされ」
    老爺はいたたまれぬ、という風情で手を振り客人たちに姿勢を戻すよう請うた。二人が
   顔を上げると、
    「教示などはいささかも。ゼネス殿はご自分で会得なされました、私はただ立ち合いを
    しましたまでのこと」
    などと言う。謙遜も甚だしい、ゼネスは声に力を入れた。
    「お言葉ながら、貴兄とお会いすることがなければ、俺は何にも気づかぬままであった
    ろう。ご教示いただいたことどもは剣技だけには止まらぬ、いずれも貴兄のお人柄あっ
    たればこそこの身に沁み申した」
    「お褒めのお言葉、いちいちまことにかたじけなく」
    客の感謝に、ウェイ老もまた白髪の頭を下げた。ややあって、
    「この老体が何がしかお二方のお役に立てましたらば、望外の喜びにござる」
    はにかみつつ破顔した。
    「ウェイ先生」
    そこへ、横合いからマヤも膝を進めてきた。
    「あの、本当に今までありがとうございました。ウェイ先生と、そして皇帝陛下にお会
    いできましたこと、私にとりましては嬉しいとか光栄とかいう以上に、自分の中のいろ
    んなモヤモヤがすっきり開けた思いでした。重ねまして、感謝を申し上げます」
    言って、再度両手をついて伏す。老爺は静かにうなずいた。
    「マヤさん、陛下とのご縁は私というより貴女のカードが結んだ縁(えにし)にござろ
    う。貴女のカードは以前には貴女の悩み、迷いの源(みなもと)であった。ですが今で
    は貴女の礎(いしずえ)であり陛下との絆にござる。マヤさんならば必ずや、良き持ち主
    となれましょう。だからこそ陛下はカードを貴女に託されたことと私は愚考いたしまする」
    少女は跳ね起きるようにして頭を上げた。
    「そう、そうですね。タイハンの皆さまとのご縁はこのカードあるがゆえでした。私は
    これからも陛下と皆さまに恥じぬようなセプターであるよう、精進を続けてまいります」
    「その意気です。マヤさんならばおやりになれるでしょう」
    老剣士はあくまで穏やかにも優しく、少女を勇気づけてくれるのだった。ゼネスは両人
   のやりとりを温もりにひたされた心地で眺めた。
    こうしてひとしきり別れの辞を述べ合うと、マヤは新たな茶を淹れ直した。これからは
   村での最後の団らんの時間になる。夜はふけ、風の音は絶えて虫の声ばかりが繁く耳に入る。
    「それで……あの、ウェイ先生、私、お別れの前にひとつだけお訊ねしたいことがござ
    いますのですけれど……」
    湯のみから半分ほど茶を飲んで、マヤが座り直した。彼女がこの上なにを質すのか、と
   ゼネスも興が向くまま弟子の声に耳を傾ける。
    「何なりと、どうぞ」
    うながされ、彼女は口を開いた。
    「はい。お訊ねしたい件とはウェイ先生ご自身のことです。先生はいつ頃から剣技を習
    われ、どのような修行を続けてこられたのか、そういったことをぜひともお聞かせくだ
    さいませ」
    「なるほど、私の半生でございますか。さほど面白きものではございませぬが、ご所望
    とあらばお話をいたしましょう」
    老爺は形をあらためて背すじを伸ばし、語り始めた。
    「――私はもともとタイハンの西のはずれにて生を受けました者、痩せ地を細々と耕す
    貧しき農家の倅(せがれ)にてござる。西征で相対した西方の異民族とは、幼い頃より
    つい鼻の先を接し合う暮らしでござった」
    「すると、貴兄が西征の将軍職に抜擢されたのは」
    「はい、私が西の土地と民の事情に通じていたことも理由の一つであったでござろう」
    ゼネスもマヤも「なるほど」と納得した。西征に大功あった大将軍は、もとより西の涯
   をよく知る人であった。
    「西の荒れ地の民とは昔よりいざこざの絶えぬ土地柄でありましたがゆえ、秋が深くな
    りますと都より兵士の一団が派遣されてきて、晩秋から冬を経て春までの国境の固めを
    したものでござる。
     私が十歳の頃、村の近くに駐屯された兵士の中に剣の心得のある方がおられましてな、
    仕事の合間を見て村の悪童どもに剣技の手ほどきをしてくだされた。私はまず、その方
    に見出されました。
     ひと冬を剣術の稽古に明け暮れ、見所のある小僧として都で本格的な剣の修行をする
    よう奨められたのでござる。私は三男で家の厄介になるしかない身の上でありましたが
    ゆえ、両親も運が開けるならば、と奨めのままに剣を志すことを承知してくれました」
    聞けば、名剣士の始まりは全くの偶然に操られてのものであった。いや、思えば運命と
   はそのような偶然の積み重ねによりできあがっているのかも知れないが。
    「その後都に出て、本式に剣の修行を始めました。そうしますと、剣の階梯を上がる毎
    に不思議な縁によってより上の師匠と出会い、あるいは奨められていくつかの流派を横
    断もし、次第に都人らの口の端にも名が上がるようになり申した。また私も、剣技の全て
    を追求したい思いが嵩(こう)じて流派を問わず対戦をこなし、剣以外にも槍、二刀流、
    大剣、矛、棒術、手裏剣、鎖鎌などの各派を学び申した。
     こうして夢中のままに打ち込むうち、気がつけば国軍の剣技指南のお役についておっ
    たのでござる。
     ただ、私がその任でお教えしましたのは剣の技よりも剣を使うための心得でございま
    した。けれどその点が陛下の守り役であられるシェイ=ヤン殿のお目に留まるきっかけ
    となったようでござる」
    「そうですか。先生はやはり、ご幼少の頃よりひたすらに剣技の習得を心がける歳月を
    送ってこられたのですね。そうして……陛下の剣の師匠になられてみて、あの、失礼とは
    存じますがおうかがいします。陛下はどのようなお弟子でしたのでしょうか、先生から
    ご覧になって」
    注意深い言い方をしながらも、マヤは膝を乗り出して訊ねていた。彼女が最も聞きたい
   話はこの部分だったのか。
    「それは聡明な、呑み込みの早いお方でございましたな。私が一をお教えすればたちど
    ころに十を悟られる、そういう弟子であられました。剣の技はたちまちのうちにひと通り
    のことは習得され、並の男子では相手が務まらぬほどにたしなまれましたし、さらに心
    得につきましては私の持てる全てを吸い尽くされましたなぁ。
     良き弟子は師を追い立てて止まないもの。陛下の鋭いご下問にお答えすべく、私も日々
    研鑽を積み申した。師として陛下に相対しました月日こそは、我が生涯の最も充実した
    期間でござった。
     私は妻帯はしましたものの妻との縁が薄く、早くに先立たれましてな。しかし若き方
    の背を見送る年長者の満足を、恐れながら陛下のおかげにて味わうことができ申した」
    ハッとして、ゼネスは胸を突かれた。思わず居住まいを正した。「弟子の背を見送る師
   の満足」とは……老剣士の終始穏やかで泰然とした様子は、人柄というより成し遂げた師
   の満足感がもたらしたものだったのだろうか。いずれにせよ、幸福な師弟関係であったこ
   とはまぎれもない。
    「弟子とは、師にとっての鏡でござる。優れた弟子であるほどは、弟子は師の在りよう
    を映し取りますからな。なれば師たる者は常に心身を引き締め、鏡を見る心地にて弟子
    と相対するが肝要でござろう」
    皺を刻んだアゴがうなずく。ゼネスも引き入れられるようにしてうなずいていた。

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